売上より“仕組み”をつくる。27歳の元経営者が見た、成長を止めない農家の共通点

【画像①:若手農業経営者が圃場でデータを確認している様子】

現代の農業経営において、「儲かる=売上をいかに上げるか」という単純な公式だけでは、成長を持続させることは難しくなっています。気候変動・人手不足・市場の変化といった外部環境が複雑化するなかで、生産者が安定して利益を上げ続けるためには、「再現性のある仕組み=誰がやっても一定の成果が出る仕組み」をいかに構築するかが鍵となります。27歳という若手ながら農場運営を経験し、現在は企画・マーケティング支援にも関わる筆者が、現場を巡って実見した「成長を止めない農家」の共通点を、公的研究の知見を交えて解き明かします。


1.“仕組み”が次世代の資産になる

【画像②:圃場全体を俯瞰したドローン撮影風景】

まず押さえておきたいのは、「売上」そのものは結果であり、むしろ経営者が注目すべきなのは「仕組み」であるという考え方です。仕組みとは、例えば次のような構造です。

  • 作型(栽培期、品目、出荷時期)ごとに、原価・収量・販売価格を踏まえたモデルを持つ。
  • 作業工程(播種・管理・収穫・出荷)を誰が担当しても同じ品質・収量が出せるように標準化。
  • 販売ルート・顧客構造が「そのときだけ買ってくれる先」に依存せず、複数チャネルを組み込んだ構造。

このような仕組みが構築されている農家は、天候の変動や市況の変化が起きても対応しやすく、成長が止まりにくいと言えます。実際、農業機械・ICT(情報通信技術)導入の文献では、「機械化は作業の効率化・労働力削減にもつながり、生産性・経済効率にプラスの影響を与えている」と報告されています。

また、品目や作型を多様化した「農業の多様化(diversified farming)」に関するメタ分析では、「単品大量栽培型」よりもむしろ「多様化型」のほうが総収入・純利益ともに高くなる傾向がある、というグローバルな証拠があります。 この点は、「売って終わり」ではなく「仕組みを残す」・「再現できる体制をつくる」ことの重要性を裏付けます。


2.現場力と設計力をつなぐ若手視点

【画像③:ハウスの中でタブレットを使い作業を分析しているスタッフ】

農業現場では、「観察して、経験を重ねて、勘で判断する」という昔ながらのやり方が根強く残っています。しかし、成長を止めないためには、それだけでなく「この作業がなぜ必要か」「この値段でこの出荷量なら利益は出るか」「人を替えても同じ成果が出るか」といった設計思考 が求められます。

研究によると、機械化やICT導入が「どの工程を機械化・自動化するか」「どんなデータを拾って何を改善するか」という設計がなければ、期待した成果を出せないという指摘があります。NBER+1 つまり、設備やデジタルツールを入れれば勝てる、という単純な話ではなく、「何をどう“仕組み化”するか」が問われているのです。

若手である筆者が感じるのは、「現場経験もあるが、若いからこそ“仕組みをつくる視点”を持ちやすい」という強みです。例えば、ハウス内の灌水・温度・品質の監視をタブレットで見て、誰が入力しても同じ分析結果が出るようなテンプレートを設ける。あるいは、収穫日・商品の規格・販売ルート・フィードバックといったフローを可視化し、「次の出荷に向けてどう改善するか」を仕組みとして回せる構造をつくる。これが「成長を止めない農家」の土台となります。


3.仕組みを“再現できる”資産にする経営設計

【画像④:若手農業者がベテラン農家と意見交換しているシーン】

ここで、「仕組みを構築する」ための具体的なポイントを、若手視点で整理します。

  1. 標準化・マニュアル化:誰が作業しても同じ水準を出せるタスク設計。作業手順、チェックポイント、記録ルートを決めて“属人化”を防ぐ。
  2. データ可視化:収量・原価・作業時間・出荷価格・販路別売上などを記録し、数値として「改善可能な指標」とする。
  3. 多様化とリスク分散:一品種・一市場に過度に依存せず、複数の品目・販路・顧客構造を設計。先述の研究では多様化型が利益面で有利という結果が出ています。
  4. 人材設計・継承設計:次世代・スタッフが入ってもスムーズに機能する組織構造の設計。仕組み化された農場は、経営者が現場を離れても回りやすい。
  5. 改善サイクルの確保:「仕組みを作って終わり」ではなく、「振り返る → 改善する → 再構築する」というサイクルを回す思考を持つ。

このように、“仕組みが資産になる”とは、売上がその場限りの数字ではなく、次世代に継承できる構造・プロセスとして残るということです。


4.誰でも応用できる「成長を止めない農家の共通点」

【画像⑤:ホワイトボードに経営フローを書いているシーン】

上記を踏まて、実際に農業経営者や現場スタッフがすぐに取り組める「共通点」を整理します。

  • 売上ではなく“指標設計”を語る
     例:「この品目で1haあたり経常利益○円/年出すには、管理費・作業時間・出荷歩留まりをこの水準にする必要がある」など。
  • 「誰がやっても同じ成果が出る流れ」を意識する
     属人性が高い現場ほど、経営者が外れて仕組みが止まるリスクが高い。
  • 作型・品目・販路の多様化を進める
     単一品目・単一販路はリスクがある。最近の研究で「多様化農業システム」が経済的にも優位というエビデンスが出ています。
  • データを用いて“振り返り→改善”を習慣化する
     例えば、前年の作業記録をもとに「ここを改善すれば出荷歩留まり+2%」「販売単価がこのルートなら+5%」というように設計。
  • 人材・組織を設計対象にする
     どんな若手・新規スタッフが入っても一定の成果が出せる設計がされている農場は、成長を止めない。

5.なぜ今、“仕組み”が重要なのか?

【画像⑥:圃場に設置されたICT機器のイメージ】

理由は主に二つあります。

  • 外部リスクの増大:気候変動、人手不足、高齢化、市場変動など、農業を取り巻く環境がかつてないほど変わりやすくなっています。こうした中、売上を上げるだけの“速攻型”戦略では耐えられない。
  • 技術進化と知見の蓄積:機械化・ICT・データ活用が農業にも浸透しつつあり、これを“思いつきで使う”のではなく、仕組みとして設計できる農場ほど付加価値・再現性を得やすくなっています。例えば、機械化の研究では「機械化により生産性・経済効率が上がる」という実証があります。

さらに注目すべき研究として、「多様化農業システム(Diversified Farming Systems:DFS)」に関するものがあります。グローバルなメタ分析では、DFSは単一栽培システムと比べて総収入・純利益ともに同等か優位という結果が出ています。また、別研究では「地理的・市場・インフラ条件が整えば、世界のおよそ47%の地域で利益を出せる多様化型農業が可能だ」という報告もあります。こうした知見は「仕組みをきちんと設計すれば、誰でも応用できる可能性」があることを示しています。


6.まとめ:「仕組みを資産に変える」時代へ

“儲かる農業”の定義を再度整理すると、それは単に「売上を上げること」でも「大量に作ること」でもありません。
それは、「再現性ある仕組みを構築して、それを次世代・スタッフ・他の現場でも機能させ続ける」ことです。
この視点を持つことで、農業は「生産産業」から「成長産業」へと変わる可能性があります。

若手世代が持つデジタル感覚・柔軟性と、現場を知る経験が融合すれば、農業経営は変革できます。今こそ、“売上より仕組み”という視点で、自分の農業を見つめ直してみてください。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA